2020年4月28日

ヘビーな仕事

「感染拡大を抑えるためにはこの二週間が大変重要です。」との外出自粛要請から早いもので1ヶ月がたった。
しかし、予想通り感染拡大は収まらず日本での確認済みの感染者数は1万3千人に上った。今日になって新しい感染者数がグッと減ってきたようにも思うが、日本の人口比で考えれば集団免疫獲得までにはほど遠いし、これからも波の浮き沈みはあるだろうが感染拡大は続いていくだろう。

実際、ここまで感染拡大が広がってしまえば、いつパンデミックが起きても不思議ではない。

このパンデミックが起きてしまえば、日本の医療体制は完全に崩壊する。今の政策は、この医療体制を確保しつつ感染スピードをゆっくりとしたものに抑えるための処置で、集団免疫獲得までの時間稼ぎをするためのものである。実際、その感染スピードは諸外国に比べ緩やかなので、ある程度作戦通りであると思う。

しかし、この作戦は必然的に新型コロナと日本国民は長いつきあいをしていこうという事でもある。ワクチンが開発されれば、意図的に集団免疫を構築することも出来ようが、それでも早くて1年、それ以上に開発までは時間がかかることも想定される。

この長い期間、国民は「コロナ感染」という不安と向き合い、日本の医療従事者達はこれまでの業務に加え「新型コロナ対策」を日常的におこなっていかなければならない。NYやイタリアのような医療崩壊はないものの、長期戦となれば医師も疲弊してくる。コロナ以外の病気での治療でも院内への感染が心配される以上、医療従事者全員が油断できない気を張りつめっぱなしの毎日になる。

今、自粛で外出が制限される中、感染リスクが高い場所のひとつとして病院や療養施設が上げられる。通常の通院で病院に行けば、ゾーン分けがされているとはいえ「コロナウィルス」に近いところへ足を踏み入れるということになる。

ましてや、医療従事者が自覚なしに感染し、院内で歩き回れば、それはウィルスが結界を超えてきているということである。もちろん医療従事者も細心の注意を払っているが、多くの患者と接する機会がある環境下では院内感染も決してめずらしい話ではない。

自分もコロナ感染症に羅漢するという不安を抱えつつ、それでもコロナに限らず治療を続けなくてはいけないというジレンマの中で、彼らのストレスは相当なものだろう。ストレスは免疫力を著しく低下させ、激務は体力を奪っていくはずである。このような状態では医療従事者の感染リスクは益々高まるだろう。

彼らが少しでも安堵できるようにするためにも、今、無学な僕らが出来ることは自分がコロナ感染症にかからないようにすることしかない。
自分の判断で、自分を戒め、自分の行動を制限するしかないのだ。

人恋しいとか、パチンコやりたいとか、週末だから海に行こうなどと思っても自制できなければ意味はない。「大丈夫、体力あるとか」とか胸を張って言ってても、自分が無自覚感染しているだけかも知れない。
遊んで息抜きをしたい気持ちも分からんではないが、ヘビーな職責の中で見ず知らずの他人のために命を懸けている人たちの顔を思い浮かべて欲しい。

夏の星座のひとつに「へびつかい座」というのがある。今のこの時期でも午前0時を過ぎた頃には南の空に見えると思う。さそり座の左側の大きな五角形の星座がそれだ。
「へびつかい」と名がついているが、実はこれはギリシャ神話の「アスクレピオス」というお医者さまの姿である。

アスクレピオスの持っている蛇が巻き付いた杖は、「アスクレピオスの杖」といい、WHOをはじめ世界中の医療機関のシンボルにも使われている。

人間でありながら、死者さえ蘇らせたという医術の持ち主で神々からも一目置かれる存在だったが、冥界の王ハーデスは、冥界にくる死者が少なくなったことに腹を立て、ゼウスに殺すように進言をした。

どんな病も怪我も、死者さえも治せたアスクレピオスだが、自分の死はどうしようもなかった。死後、その功績は神々にも認められ星座になったが、以後長い間人間は様々な疫病にも晒されなくてはいけなくなった。

現代医学は、古代ギリシャからすれば、まさにアスクレピオスの術だろう。
死の病すら、どんどん克服してきている。
ハーデスにしたら、民である死者が減ってまた面白くはないのかも知れないが、コロナ禍では、一気に死者が冥界に押し寄せてきて、かえって困っているのではないだろうか?

どうか今度ばかりは、ゼウスに変な入れ知恵などせずに、現代のアスクレピオス達を見守って欲しいと思うのです。

2020-04-28 | Posted in RAKUGAKI ESSAYNo Comments » 

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